未来の価値

第 2 話


気のせいか?
いや、だが、もしかしたら。
俺はうつ伏せのまま倒れ伏しているスザクの下へ駆け寄った。地面を赤く染めた血液に一瞬息を呑んだが、直ぐに気を取り直しその体を手早く調べた。
顔色は悪く、意識はないが・・・生きている。

「スザク、おい、しっかりしろスザク!」

呼びかけ、体を揺らしても意識は戻らなかったが、脈もはっきりと感じられ、呼吸も正常だった。生きている、生きていた。安堵から、僅かに視界がぼやけた。
至近距離で撃たれた脇腹の出血量が少ない事に一瞬疑問を感じたが、そんなことより早く治療をしなければと、視線を親衛隊へ向けた。

「おい、お前達!急いでスザクを医療部隊の元へ運び治療しろ!!絶対に死なせるな!!」
「イエス・ユアハイネス!」

親衛隊のなかでも体格のいい二人が駆け寄ると、手早く自分の軍服を使い傷口を縛り付けた後、スザクを抱えて走りだした。他の者が怪我人を運ぶ旨を無線で伝えているのが聞こえる。軍が動いた時点で、ブリタニアの最新医療施設を備えた医療部隊も動いているから、そこに運び込まれるだろう。
・・・命令を咄嗟に変更してよかった。
もし全員殺した後だったら、スザクを運ぶ手立ても、治療する術も見いだせ無かったに違いない。しかもここにいるのは唯の軍人ではなく、クロヴィス直属の親衛隊。たとえイレブンの一兵卒でも、親衛隊が必要と判断し、救助したのだから、医師たちはスザクを粗雑に扱えない。だからもう大丈夫だろう。
ならば。

「お前が親衛隊の隊長か」

先ほど銃を向けていた、この中で一番身なりのいい男に声をかけた。

「はっ!」
「今からクロヴィスの元へ向かう。案内をしろ」
「イエス・ユアハイネス!」

この下らない殲滅作戦、すぐに停止してもらいますよ・・・兄さん。
そして、この力で俺は真実を貴方から手に入れる。
母さんを殺した犯人を、必ず・・・。
今後のプランを考えながらその場から立ち去ろうとした俺に、隊長は「よろしいでしょうか」と声をかけてきた。

「何だ?」
「こちらの”毒ガス”はいかが致しましょう」

指し示した先には、額を撃ち抜かれ即死・・・そう、即死したはずの少女が倒れ伏していた。額から流れた血液は血だまりを作り、そのなかに横たわる体はピクリとも動かなかった。そう、スザクとは違い、彼女からは生命の息吹を感じられない。間違いなく、死んでいるだろう。
それなのに、あの時彼女の手は間違いなく俺の手を掴んだ。
あり得ない話だが、この身にギアスが宿った以上否定など出来はしない。

既に死んだ人間ではあるが、彼女には二度も命を救われた。
一度目はその体で。
二度目はその力で。

「彼女には返しきれない借りがある・・・丁重に運び出せ」
「イエス・ユアハイネス」

親衛隊の一人が、少女を壊れ物を扱うかのように優しく抱き上げた。
地上に用意されていた軍用車は2台。そのうち1台はトラックで、KMFが積まれていた。

「サザーランドか・・・」

これは使えるなと、俺は目を細める。
遠くで銃撃戦の音が響いていた。テロリストは今も尚圧倒的な武力を誇るブリタニア軍相手に無駄な戦闘を行なっている。勝ち目など到底無い、負けが決まった戦闘を。
俺はブリタニアを倒す。
そのために、軍事に関することも全て知識として蓄え、頭の中で数えきれないほどシュミレートしてきた。それが実践で使えるモノなのか否か。それを知るにはうってつけの舞台だと言えた。

「私はサザーランドで待機する。お前たちは安全な道を通り、本陣まで秘密裏に移動しろ」
「イエス・ユアハイネス」

俺はトラックの荷台に登り、受け取った起動キーとパスワードでサザーランドを起動した。親衛隊は俺の命令に忠実に従い、このサザーランドを積んだトラックと、少女の遺体を載せた車は、クロヴィスがいるG1ベースへと向かった。
この力、ギアスの持続時間がどれほどあるのかは不安要素としてあるが、この件が終わるまで親衛隊を始末するのは惜しい。この下らない殲滅作戦を終わらせ、元凶である兄クロヴィスを片付け、スザクの無事を確保する。親衛隊を始末するのはその後だ。それまで持てばいい。
俺はサザーランドを使い情報を調べ続けた。そして、先ほどテロリストのトラックで手に入れた通信機のスイッチを入れる。

「勝ちたければ、私の指示に従え」

訓練を重ねた兵と、最新鋭の装備を持ったブリタニア軍。
寄せ集めのテロリスト。
このハンデでも、勝利を掴んでみせよう。
ここで負けるようなら、ブリタニア相手に勝てはしない。
ブリタニア軍の識別信号と、運搬中だったKMF。そしてテロリスト。
それらを使い、ブリタニア軍がほぼ壊滅状態となった頃、1騎のKMFが戦場に現れ、テロリスト部隊はほぼ壊滅した。

戦術で戦略を覆しただと?
たった1騎で?
有り得ない!
本当だとしたら、どれだけバケモノなんだ!

その戦場を通りかかる際、その化物が視界に入った。
それは白を基調としたKMF。
美しい機体だと思った。
無骨なサザーランドとは違い、鎧をまとった凛々しい騎士の姿にも見えるその機体は、テロリストのサザーランドの銃撃に対し、素早く動くだけではなく、予想がつかないようなアクロバティックな挙動を示した。恐らく関節部分にも何か工夫をこらしているのだろう、その動きはまるで人間の体ようになめらかに動いていた。
なるほど、サザーランドやグラスゴーでは太刀打ちは出来ないなと理解した。今までの常識の範囲外に位置する新型のKMF。同じく目撃した親衛隊は、恐らく第二皇子シュナイゼルの直轄部隊、特別派遣嚮導技術部、通称特派が開発した世界で唯一の第7世代KMFランスロットではないかと言った。
最強の騎士ランスロット。
裏切りの騎士の名を冠する新世代KMF。
厄介だが、囮のテロリストに意識が向いているならそれでいい。
そうして、誰にも見られること無くルルーシュはクロヴィスの前に立った。

Page Top